とある愛香家の日記

香水に対する偏愛ばかりを書き連ねております

SAVOY STEAM(PENHALIGON’S)

2017年発表のEDPです。

HEAD:チュニジアローズマリー、ピンクペッパー

HEART:ローズ、ゼラニウムアブソリュート

BASE:インセンス、ベンゾイン

 

香水を身に纏う時、小難しい顔をしていませんか?私は結構香りの正体を探りながら嗅ごうとしてしまうため、少し難しく考えすぎていることが度々あります(それがまた楽しいのですけれども)。

しかしこの香水は、難しいことをなーんにも考えなくても良い香り。むしろ、難解な思考を拒否されます。それもそのはず、ターキッシュバス(トルコ風呂)がテーマだから。ローズの香るスチームミストや、薔薇の花びらが浮かぶお湯。私はローズマリーを一番強く感じます。ハーバルな香りに頭の中はリラックス。ひとっ風呂浴びて、「ああ良い湯だったな」(トルコ風呂は蒸し風呂なので湯船に浸かるのとはまた違うのでしょうけれども)となる香りです。


このサボイスチームはペンハリガンの最初の香水「ハマンブーケ」にオマージュを捧げたもの。ペンハリガンはもともとロンドンのジャーミン ストリートにある理髪店でしたが、同じ建物に入っているターキッシュバスの蒸気の香りにインスパイアされ、1872年にハマンブーケが発表されました。

ちなみに、サボイスチームのインスピレーションの源は、ジャーミン ストリートの角を曲がったところにあるデューク オブ ヨーク ストリート12番地にあった女性用のターキッシュバス「サボイ ターキッシュバス」だそうです。

VETYVER(LE GALION)

元々は1968年に発表されたものを2015年に蘇らせた香水(EDP)です。元の調香師はPaul Vacherで、復刻はThomas Fontaineが担当しました。

ガリオンは1930年創業、1935年にPaul Vacherがオーナー就任、1936年にフローラルアルデヒドの香水「ソルティレージュ」が大成功を収めながらも1980年代にはアメリカの企業に売却され、低価格戦略でブランド価値は低下、フレグランス業界から名前を消します。しかし2014に新オーナーNicolas Chabotの手により復活。当時の調香を復刻すると同時に、新しい香水も生み出しています。

ちなみに、Paul Vacherはアルページュ(アンドレ・フレイッスと共同で作ったもの)やミス・ディオールの生みの親でもあります。

 

香調:アロマティック ファーン

Head notes: スパイシーベルガモット、イタリアン マンダリン、ナツメグコリアンダー

Heart notes:クラリセージ、ラベンダー、プチグレン、タラゴン、ヴァーベナ

Base notes:ベチバー、サンダルウッド、トンカビーン、ムスク

 

1968年頃のフェミニズムの気運が高まるにつれPaul Vacherが作り出した、真に男性向けのフレグランス。

…と、公式サイト(英語版)で過去の経緯を説明しながらも、現在のルガリオンの日本向けパンフレットではユニセックス向けとなっています。メンズ寄りかとは思いますが、確かに今の時代であれば女性がつけても違和感はなく、発表当時のことはわかりませんが、もしかしたら社会のジェンダー観が変わっているのかもしれません。

http://www.legalionparfums.com/vetyver

 

プッシュした瞬間、気品溢れる香りが飛び出します。少し癖のある、スノッブシトラスです。ナツメグコリアンダーなどのスパイスが気分を引き上げてくれます。

ミドルはクラリセージ、ラベンダーとヴァーベナのハーバルな香り。しばらくすると表層でハーブがアロマティックに香る一方、深層からこんもりとした土っぽさが徐々に出てきて、ベチバーが主役のラストノートへと変わります。

 

ただし私の場合、ベチバーがあまり強く出てこない日があったのも事実で、その時はラストがサンダルウッドメインとなり、ミドルのハーバルからクリーミーな香りに変化しました。気温や湿度、また私自身の肌のコンディションに左右されていると思われ、どちらに多く振れるかは纏う人の個性によるのかな?と思います。

 

全体としてドラマティックに香りが変わっていくので、変化を楽しみたい方にお勧めです。ただ、先述の通りベチバーが必ず出ると言うことはできず、名前の通り「思いっきりベチバー!」な香水を期待すると、人によっては「あれ?」となるかもしれません。

 

イメージとしては、スマートに物事をこなしていく、ジャケットを着た細身の紳士です。クラシカルな面立ちで、どちらかというと、ジャケット姿に似合うと思います。少しかっちりめにお洒落して出かけたい時にお勧めです。

Tolu(Ormonde Jayne)

ペルー産のToluという樹脂を主軸にした香りです。

Top: Juniper Berry, Orange Blossom and Clary Sage

Heart: Orchid, Moroccan Rose and Muguet

Base: Tolu, Tonka Bean, Golden Frankincense and Amber

 

秋の森の中で、落ち葉の絨毯の上を歩いているようなイメージを持ちました。木々の間から黄金色の木漏れ日が差しているかのようです。公式でもはっきりと「秋冬向け」「秋の葉のような、ゴールド、蜂蜜色、コニャック色」と表現されています。

くぐもった、ダークな雰囲気で始まります。ジュニパーベリーやオレンジブロッサム、クラリセージなどで若干ハーバルな印象もあるのですが、その背後にはずっとトルー、トンカビーン、フランキンセンスとアンバーのベースが控えているため深みがあります。

ミドルはモロッカンローズやオーキッド、ミュゲですが、やはり樹脂系の気配が強く単純なフローラルノートには終わっていません。むしろ最初から最後まで樹脂が主役と言えるのではないでしょうか。ラストは甘めに変化します。

拡散性は低く、終始芳しい雲が自分のごく近くを漂います。パウダリーな側面もあり、私の場合は日によってパウダリーさや甘さの出方がかなり異なりました。持続力は結構ある方だと思います。

 

奥深く、落ち着く香りです。

BRUMA(CIRE TRUDON)

CIRE TRUDONは1643年創業のフランスのキャンドルメーカーです。この度著名な調香師Antoine Li、Lyn Harris、Yann Vasnierを迎え、2017年に香水のコレクションTRUDONを発表しました(18世紀にも香水を売っていた時期はあったのだとか)。

クリエイティブディレクターが各調香師に香りのコンセプトを伝える際には、まず彼らをギャラリーや美術館などに連れて行き、光や音楽などの演出でリラックスしてもらってから、最後に香りの物語を聞いてもらったのだそうです。

 

BRUMA(=ラテン語で「至点」)に関しては、狩猟自然博物館にAntoine Liを連れて行き、数々の剥製、歴史的美術品、現代アートの置かれている空間でカーテンを全て下ろし、そこから僅かな光だけが漏れるようにしたと言います。

(クリエイティブディレクターへのインタビュー記事より)

http://openers.jp/article/1582504

 


物語は、冬至の夜に高貴な淑女が寝室を飛び出し、まだ知らない自分自身を見つけるため、馬に乗って夜の森に行く、というもの。

 

トップ:ブラックペッパー、ラベンダー、ガルバナム

ミドル:ヴァイオレット、パープルピオニー、ジャスミンサンバック

ラスト:ラブダナム、ハイチ産ベチバー、トンカビーン

 

全体として、(上には書いていませんが)イリスやレザーがメインとなって香り、終始トンカビーンの甘露とベチバーの土っぽさが下支えしています。香調としてはフローラル・レザリーでしょうか。ここでのレザーはスウェードを思わせる軽めのもので、ハードな路線には転ばないため、アニマリックが苦手な方でもつけやすいと思います。主人公の女性のフェミニティを表現したというだけあって、どちらかと言えば女性向けです。

濃度はEDP。拡散性は極めて低めに感じます。

 

つけた瞬間から思ったのは、「puredistanceのWHITEの双子の姉妹」。明かされている香料で被っているのはイリス、ハイチ産ベチバー、トンカビーンのみですが、印象が良く似ています。産みの親(調香師)が同じだからでしょうか。

WHITE(白と金色の夢)がPVなどから見るとどちらかといえば明るい昼間をイメージさせるのに対して、BRUMAは月が冷たく輝く冬至の夜がテーマとなっている(とはいえ、「太陽と本質的に繋がっている」と英語版公式サイトにはありますが)ものの、冷涼感はありません。どちらも身体を温かく、柔らかく包み込んでくれて、芳しい香りの雲に身を委ねることができます。

Ormonde Woman(Ormonde Jayne)

Ormonde Jayneはリンダ・ピルキントンがオーナーを務める2002年創業のイギリスのブランドです。南米、アフリカ、極東を旅し、そこで働いた経験をお持ちの方のようです。

Ormonde Jayneを作る際、真のエレガンスを決める要素ーイギリスの職人芸の品質、フランスの香水の美、オリエントの官能性と自然なハーモニーーを結びつけることが、私の目標でした

(公式サイトより)


ブランドのシグネチャーセントとなっているこの香りは、ブラック・ヘムロック(米国西部産の大型の常緑樹)がメインに据えられています。

 

Top: Cardamom, Coriander and Grass Oil

Heart: Black Hemlock, Violet and Jasmine Absolute

Base: Vetiver, Cedar Wood, Amber and Sandalwood

 

つけた瞬間、森の中に足を踏み入れたような気持ちになります。その後次第に甘みが出てきて、表層ではフルーティーなフローラルが香り、深層ではザラつきのある材木系ウッディが香るという、二重構造が感じられます。


P(Made to measure、客が50%までの濃度を好きに指定して購入できるもの)とEDPが販売されており、私が試したのはEDPの方です。とはいえ、Ormonde Jayneは「どのボトルでも、最低でも賦香率30%」だそうなので、実質はP濃度なのだと思われます。そのためか拡散性は低く、自分の身体に添うようにして、香りの靄が揺らめいているような印象を受けます。


“a dusky, seductive perfume”と公式で謳われているように、大人の色香を感じさせる香りです。このseductive(魅惑的な)という単語はOrmonde Jayneの公式サイトでよく見かける気がしますが、私が試したことのある6種全てが「大人向け」の深みのある香りであったため、あながち言い過ぎでもないように思っています。

L'Ile au Thé(Annick Goutal)

「お茶の島」と名付けられたイルオテは、カミーユ・グタールとイザベル・ドワイヤンが韓国の済州島を旅した際にインスピレーションを得て作られたフレグランス。深い青の海と、火山の間を渡る風。そこには茶畑が広がり、蜜柑も栽培されています。

以前ムエットにて試した際にブログに書きましたが、この度サンプルを入手し、複数回試すことができたため、再度レビューします。

 

カミーユさん自身がイルオテのことを紹介している動画(英語字幕あり):


Annick Goutal - L'Ile au Thé

明かされている香料はマンダリン、オレンジフラワー、オスマンサス、セイロンティーとマテ茶、ホワイトムスク

 

最初からお茶が香り、マンダリンの香りと相まって、緑茶の渋みや苦みを感じ取ることができます。とはいえ渋すぎることはありません。徐々にオスマンサスがアプリコットのようなフルーティーさを増していきます。誰からも嫌われない、爽やかな香り。人(特に男性)によってはオスマンサスがレザーっぽく出るそうです。私の場合、日によってレザリーになったり、ならなかったりします。全くその印象が出ないという人もいますので、その日の気温や湿度、つける人の肌の状態によって変わるのかもしれません。
濃度はEDTですが、持続は長めに感じました。消えたかな、と思っても、ふとした瞬間にホワイトムスクが香ります。

 

実際、済州島では緑茶が栽培されており、お茶のミュージアムもあるそうです。周りは緑一色の茶畑で、畑に入ることもできるのだとか。緑を眺めながらカフェでお茶を飲むのも素敵ですね。

o`sulloc ミュージアム済州島

www.seoulnavi.com

韓国でお茶というと、ゆず茶やオミジャ茶(←超好き)、高麗人参茶をお土産でいただくことが多く、緑茶のイメージがあまりなかったのですが、今度行く機会があれば購入してみたいと思います。

なお、済州島は周囲に暖流が流れているため韓国では最も暖かく、国内で唯一の蜜柑の生産地なのだそうです。香料にマンダリンが使われているのも頷けます。「みかんキムチ」という食べ物もあるのだと、以前NHKの「世界入りにくい居酒屋」で紹介されていました。

村上恵美子Pの食いしん坊コラム|チェジュ島(韓国)|世界入りにくい居酒屋|NHKオンライン

 

ところで、日本語でも英語でも「火山と茶畑のあるアジアの島にインスピレーションを受けて…」と変にぼかした紹介文を見かけるのですが、そこは胸を張って済州島だとハッキリ書けば良いと思います(本国サイトには記載あり)。アジアって、広すぎでしょう…

FLEUR DE PEAU(Diptyque)

ディプティックは1961年にDesmond Knox-Leet, Yves Coueslant, Christiane Gautrotの3人によって創業されました。最初はファブリックを売っていましたが、1963年に香り付きのキャンドルを発売、次第に事業をそちらにシフトしていきます。1968年には最初の香水L’EAUを発表、その50周年を記念して発売された新作2本がTEMPO(テンポ)と今回ご紹介するFLEUR DE PEAU(フルールドゥポー)です。それぞれ60年代に流行った香料がメインに据えられ、TEMPOはパチュリ、FLEUR DE PEAUはムスクが使用されています。


香料:ムスク、アイリス、アンバーグリス、ピンクペッパー


「肌の花」と名付けられたこの香りは、ピンクペッパーの煌めきで幕を開けます。公式で明かされている香料には入っていませんが、私はアルデヒドを感じます。海外のクチコミサイトでaldehydic floralと紹介されていたので、あながち間違いではないのかもしれません。体感としてはアルデヒドが冷たさを与えながら全体をリフトしており、ムスクとアイリスがふわふわと身体を包んでくれると言うよりは、チョークを思わせる硬さと粉っぽさがあります。

スキンフレグランスの分類に含まれると思われ、拡散性が低く肌馴染みが良いためか、それとも私の肌の問題なのか、プッシュ数を増やしてもあまり強く香りません。ディプティックの他の香りでも感じることですが、トップ-ミドル-ラストとはっきり変化していかないため、ドラマティックな展開は期待せず、この冷涼感のあるアイリスをずっと楽しみたいかがポイントとなりそうです。

個人的には、人と会う際に個性のある香水をつけていくのは気がひける、とか、何かをプラスするタイプの香水をつけるには気持ちが疲れすぎているけど、何かしら纏っていたい時などに使っています。ひんやり硬質パウダリーなスキンフレグランスをお探しの方にはお勧めです。