とある愛香家の日記

香水に対する偏愛ばかりを書き連ねております

Fatih Sultan Mehmed(Fort & Manlé)

Fort & Manléはオーナー調香師Rasei Fortによるメルボルンのブランド。Raseiは独学で調香を学んだトルコ系の人。自身のルーツに基づく作品を多く作っており、Fatih Sultan Mehmedもそのひとつです。Manléはブランド初期の頃スケッチを描いてデザインをしていた人の名前とのこと。

ブランドロゴはトランプのジョーカーのような、宮廷道化師の顔。インタビューの中でRaseiは「私は調香を正統な方法で学んでいないため、香水の世界で王族たちの中にいる宮廷道化師のような気持ちでいます。私はむしろジョーカーに近いのです」と述べています。

Fatih Sultan Mehmedはメフメト2世からインスパイアされた香水で、当時の贅ー王宮の庭や、スルタン達が纏っていた香水、香油ーを捉え、富を象徴し、メフメト2世に敬意を表していると言います。

https://www.fragrantica.com/news/Fort-Manle-Oriental-Perfumes-from-Melbourne-10429.html

 

メフメト2世はオスマン帝国の第7代スルタンで、コンスタンティノープルを陥落し、ビザンツ帝国を滅ぼした人物。30年以上に渡る征服事業から「征服者(Fatih)」と呼ばれました。その一方、イスラーム以外の文化にも理解を示し、宮廷には国際的な空気が流れ、ペルシャやトルコの詩人、アラブやギリシャ天文学者、イタリアの学者や芸術家を抱えていたようです。策士でもあり、70隻以上の船を建造させたのだとか。

 

トップノートはベルガモット、アップル、プチグレン。中でもアップルが主に香ります。とてもジューシーでフルーティー

やがてローズ、チューリップ、イリスのフローラルノートがバニラ、ベンゾイン、アンバーの甘さと共に香ります。メフメト2世は園芸に熱中しており、遠征先でもユリ、チューリップ、スイセン、バラなどの植物を探し宮廷に持ち帰っていたとウィキペディアにあるので、おそらく花々のチョイスはこのようなエピソードによるものでしょう。

アンバーグリスのしょっぱさがボスフォラスの思い出を表現し、ラストはシダー、パチュリ、ウード。…なのですが、これらは控えめ。全体的な印象としては「バニラや樹脂によって絶妙な甘さをプラスされたエキゾチックな林檎」で、アップルのフルーティーさが割と最後まで残ります。

ディスカバリーセットで新作のForty Thieves以外は全て嗅ぎましたが、Fort & Manléの香りは大変独創的で、フルーツとフローラルとウッディの香料が賑やかにわいわいと香る生き生きとした香水ばかりです。中でもFatih Sultan Mehmedはとびきりチャーミング。メフメト2世は実はお茶目だったんだろうか…と思わせるような調香です。