CHELSEA FLOWERS(Bond No.9)
ボンド・ナンバーナインが作る香りは全てニューヨークの街へのオマージュ。ブランドの名前は、ニューヨークのNOHO地区にあるボンドストリートの9番地で誕生したことから。
英語版公式サイトによると…
ミッションは2つ。パフューマリーを芸術品として位置付けること。そしてニューヨークにある地域に対し、それぞれ香りを作ることで、街に敬意を払うこと。
ベストセラー「セントオブピース」は世界平和を唱え、また「リバティアイランド」(注:自由の女神がある島)は自由と多様性を称えています。
https://www.bondno9.com/philosophy.html
幸運にもサンプルをゲットしました。包みが飴かチョコレートっぽい!
フルボトルはボンドナンバーナイン特有の星形というかヒト型。高級感を演出するというよりは、ポップなアートと言った風情です。こんな感じ:
チェルシー地区には青果・生花市場があり、その一方で、劇場や芸術ギャラリーがある街です。紙で包まれた新鮮な花束が、アートギャラリー、クラブ、レストランが軒を連ねる、ニューヨークの最新アートスポットに彩りを添えます。
香調はフローラルフレッシュで、公式で明かされている香料はWhite peony, white hyacinth, musk。
海外の香水コミュニティサイトfragranticaを見ると、peony, tulip, hyacinth, magnolia, rose, musk, sandalwood, vetiver, mossが使われているとの情報もあります。
チェルシーフラワーはまさしく「春の香り」。花束を抱えた時に感じる、花だけではなく葉っぱや茎の緑の匂いも感じられます。青果・生花市場のある地区を表現したというのに納得。喜びに溢れた、瑞々しく、フレッシュな香りです。晴れた青い空が思い浮かびます。
少量でよく香るようで、家の中でつけていたら数メートル離れたところから家族に気づかれました。
さて、ボンドの話になると決まって出て来るのが値段のことですが、以前50ml25,380円だったのが2018年2月1日から33,372円になりました。都会のセレブ向けブランド路線を強めたということでしょうか。本国サイトを見ると50mlが215USドルで買えるようなのですが、この違いはどこから来るんでしょうね。
Ambre Topkapi(Parfums MDCI)
Parfums MDCIから、Ambre Topkapiをご紹介します。
調香師はPierre Bourdonです。
Top: bergamot, grapefruit, pineapple, cardamom, cinnamon, ginger, thyme, absinth, lavender
Heart: jasmine, lily of the valley, violet
Bottom: oak foam, patchouli,vetiver, rosewood, sandalwood, raspberry, Darjeeling tea, amber, vanilla, musk
つけた瞬間の印象は、スーパークール。
ジンジャーのスパイシーさとともに、タイム、アブサン、ラベンダーがハーバルに香り立ちます。
ミドルに移ると、清涼感が強かったラベンダーに柔らかさが出てきて、その風に乗ってジャスミンやリリーオブザバレーが花開きます。
ラストは表層にラベンダー、下層にベース系の様々な香料が一体となって香ります。中でも白檀が感じられ、こんもりとした香りに包まれます。最後にはバニラとムスクが残ります。
タイトルにはアンバーとあるもののほとんど表立っては感じず、どちらかというとラベンダーが主役です。
メーカー公式サイトではメンズ香水に分類されてはいますが、女性が纏ったら(女性用香水にはラベンダーのものが少ないので)意外性があるかもしれません。香り自体に奇をてらったところはなく、まっすぐで王道を行くラベンダー香水という印象を受けました。胸板は厚めです。
SAVOY STEAM(PENHALIGON’S)
2017年発表のEDPです。
BASE:インセンス、ベンゾイン
香水を身に纏う時、小難しい顔をしていませんか?私は結構香りの正体を探りながら嗅ごうとしてしまうため、少し難しく考えすぎていることが度々あります(それがまた楽しいのですけれども)。
しかしこの香水は、難しいことをなーんにも考えなくても良い香り。むしろ、難解な思考を拒否されます。それもそのはず、ターキッシュバス(トルコ風呂)がテーマだから。ローズの香るスチームミストや、薔薇の花びらが浮かぶお湯。私はローズマリーを一番強く感じます。ハーバルな香りに頭の中はリラックス。ひとっ風呂浴びて、「ああ良い湯だったな」(トルコ風呂は蒸し風呂なので湯船に浸かるのとはまた違うのでしょうけれども)となる香りです。
このサボイスチームはペンハリガンの最初の香水「ハマンブーケ」にオマージュを捧げたもの。ペンハリガンはもともとロンドンのジャーミン ストリートにある理髪店でしたが、同じ建物に入っているターキッシュバスの蒸気の香りにインスパイアされ、1872年にハマンブーケが発表されました。
ちなみに、サボイスチームのインスピレーションの源は、ジャーミン ストリートの角を曲がったところにあるデューク オブ ヨーク ストリート12番地にあった女性用のターキッシュバス「サボイ ターキッシュバス」だそうです。
VETYVER(LE GALION)
元々は1968年に発表されたものを2015年に蘇らせた香水(EDP)です。元の調香師はPaul Vacherで、復刻はThomas Fontaineが担当しました。
ル ガリオンは1930年創業、1935年にPaul Vacherがオーナー就任、1936年にフローラルアルデヒドの香水「ソルティレージュ」が大成功を収めながらも1980年代にはアメリカの企業に売却され、低価格戦略でブランド価値は低下、フレグランス業界から名前を消します。しかし2014に新オーナーNicolas Chabotの手により復活。当時の調香を復刻すると同時に、新しい香水も生み出しています。
ちなみに、Paul Vacherはアルページュ(アンドレ・フレイッスと共同で作ったもの)やミス・ディオールの生みの親でもあります。
香調:アロマティック ファーン
Head notes: スパイシーベルガモット、イタリアン マンダリン、ナツメグ、コリアンダー
Heart notes:クラリセージ、ラベンダー、プチグレン、タラゴン、ヴァーベナ
Base notes:ベチバー、サンダルウッド、トンカビーン、ムスク
1968年頃のフェミニズムの気運が高まるにつれPaul Vacherが作り出した、真に男性向けのフレグランス。
…と、公式サイト(英語版)で過去の経緯を説明しながらも、現在のルガリオンの日本向けパンフレットではユニセックス向けとなっています。メンズ寄りかとは思いますが、確かに今の時代であれば女性がつけても違和感はなく、発表当時のことはわかりませんが、もしかしたら社会のジェンダー観が変わっているのかもしれません。
http://www.legalionparfums.com/vetyver
プッシュした瞬間、気品溢れる香りが飛び出します。少し癖のある、スノッブなシトラスです。ナツメグやコリアンダーなどのスパイスが気分を引き上げてくれます。
ミドルはクラリセージ、ラベンダーとヴァーベナのハーバルな香り。しばらくすると表層でハーブがアロマティックに香る一方、深層からこんもりとした土っぽさが徐々に出てきて、ベチバーが主役のラストノートへと変わります。
ただし私の場合、ベチバーがあまり強く出てこない日があったのも事実で、その時はラストがサンダルウッドメインとなり、ミドルのハーバルからクリーミーな香りに変化しました。気温や湿度、また私自身の肌のコンディションに左右されていると思われ、どちらに多く振れるかは纏う人の個性によるのかな?と思います。
全体としてドラマティックに香りが変わっていくので、変化を楽しみたい方にお勧めです。ただ、先述の通りベチバーが必ず出ると言うことはできず、名前の通り「思いっきりベチバー!」な香水を期待すると、人によっては「あれ?」となるかもしれません。
イメージとしては、スマートに物事をこなしていく、ジャケットを着た細身の紳士です。クラシカルな面立ちで、どちらかというと、ジャケット姿に似合うと思います。少しかっちりめにお洒落して出かけたい時にお勧めです。
Tolu(Ormonde Jayne)
ペルー産のToluという樹脂を主軸にした香りです。
Top: Juniper Berry, Orange Blossom and Clary Sage
Heart: Orchid, Moroccan Rose and Muguet
Base: Tolu, Tonka Bean, Golden Frankincense and Amber
秋の森の中で、落ち葉の絨毯の上を歩いているようなイメージを持ちました。木々の間から黄金色の木漏れ日が差しているかのようです。公式でもはっきりと「秋冬向け」「秋の葉のような、ゴールド、蜂蜜色、コニャック色」と表現されています。
くぐもった、ダークな雰囲気で始まります。ジュニパーベリーやオレンジブロッサム、クラリセージなどで若干ハーバルな印象もあるのですが、その背後にはずっとトルー、トンカビーン、フランキンセンスとアンバーのベースが控えているため深みがあります。
ミドルはモロッカンローズやオーキッド、ミュゲですが、やはり樹脂系の気配が強く単純なフローラルノートには終わっていません。むしろ最初から最後まで樹脂が主役と言えるのではないでしょうか。ラストは甘めに変化します。
拡散性は低く、終始芳しい雲が自分のごく近くを漂います。パウダリーな側面もあり、私の場合は日によってパウダリーさや甘さの出方がかなり異なりました。持続力は結構ある方だと思います。
奥深く、落ち着く香りです。
BRUMA(CIRE TRUDON)
CIRE TRUDONは1643年創業のフランスのキャンドルメーカーです。この度著名な調香師Antoine Li、Lyn Harris、Yann Vasnierを迎え、2017年に香水のコレクションTRUDONを発表しました(18世紀にも香水を売っていた時期はあったのだとか)。
クリエイティブディレクターが各調香師に香りのコンセプトを伝える際には、まず彼らをギャラリーや美術館などに連れて行き、光や音楽などの演出でリラックスしてもらってから、最後に香りの物語を聞いてもらったのだそうです。
BRUMA(=ラテン語で「至点」)に関しては、狩猟自然博物館にAntoine Liを連れて行き、数々の剥製、歴史的美術品、現代アートの置かれている空間でカーテンを全て下ろし、そこから僅かな光だけが漏れるようにしたと言います。
(クリエイティブディレクターへのインタビュー記事より)
http://openers.jp/article/1582504
物語は、冬至の夜に高貴な淑女が寝室を飛び出し、まだ知らない自分自身を見つけるため、馬に乗って夜の森に行く、というもの。
トップ:ブラックペッパー、ラベンダー、ガルバナム
ミドル:ヴァイオレット、パープルピオニー、ジャスミンサンバック
ラスト:ラブダナム、ハイチ産ベチバー、トンカビーン
全体として、(上には書いていませんが)イリスやレザーがメインとなって香り、終始トンカビーンの甘露とベチバーの土っぽさが下支えしています。香調としてはフローラル・レザリーでしょうか。ここでのレザーはスウェードを思わせる軽めのもので、ハードな路線には転ばないため、アニマリックが苦手な方でもつけやすいと思います。主人公の女性のフェミニティを表現したというだけあって、どちらかと言えば女性向けです。
濃度はEDP。拡散性は極めて低めに感じます。
つけた瞬間から思ったのは、「puredistanceのWHITEの双子の姉妹」。明かされている香料で被っているのはイリス、ハイチ産ベチバー、トンカビーンのみですが、印象が良く似ています。産みの親(調香師)が同じだからでしょうか。
WHITE(白と金色の夢)がPVなどから見るとどちらかといえば明るい昼間をイメージさせるのに対して、BRUMAは月が冷たく輝く冬至の夜がテーマとなっている(とはいえ、「太陽と本質的に繋がっている」と英語版公式サイトにはありますが)ものの、冷涼感はありません。どちらも身体を温かく、柔らかく包み込んでくれて、芳しい香りの雲に身を委ねることができます。
Ormonde Woman(Ormonde Jayne)
Ormonde Jayneはリンダ・ピルキントンがオーナーを務める2002年創業のイギリスのブランドです。南米、アフリカ、極東を旅し、そこで働いた経験をお持ちの方のようです。
Ormonde Jayneを作る際、真のエレガンスを決める要素ーイギリスの職人芸の品質、フランスの香水の美、オリエントの官能性と自然なハーモニーーを結びつけることが、私の目標でした
(公式サイトより)
ブランドのシグネチャーセントとなっているこの香りは、ブラック・ヘムロック(米国西部産の大型の常緑樹)がメインに据えられています。
Top: Cardamom, Coriander and Grass Oil
Heart: Black Hemlock, Violet and Jasmine Absolute
Base: Vetiver, Cedar Wood, Amber and Sandalwood
つけた瞬間、森の中に足を踏み入れたような気持ちになります。その後次第に甘みが出てきて、表層ではフルーティーなフローラルが香り、深層ではザラつきのある材木系ウッディが香るという、二重構造が感じられます。
P(Made to measure、客が50%までの濃度を好きに指定して購入できるもの)とEDPが販売されており、私が試したのはEDPの方です。とはいえ、Ormonde Jayneは「どのボトルでも、最低でも賦香率30%」だそうなので、実質はP濃度なのだと思われます。そのためか拡散性は低く、自分の身体に添うようにして、香りの靄が揺らめいているような印象を受けます。
“a dusky, seductive perfume”と公式で謳われているように、大人の色香を感じさせる香りです。このseductive(魅惑的な)という単語はOrmonde Jayneの公式サイトでよく見かける気がしますが、私が試したことのある6種全てが「大人向け」の深みのある香りであったため、あながち言い過ぎでもないように思っています。