とある愛香家の日記

香水に対する偏愛ばかりを書き連ねております

フーアブサン(ラルチザン パフューム)

2006年発表のEDP。禁断の酒、アブサンをテーマにした香水です。アブサンはニガヨモギやアニス、ウイキョウなどのハーブやスパイスで作られるリキュールで、芸術家含め多数の中毒者を出したことから一時期禁止されるまでに至りました。
(現在は幻覚をもたらすとされた成分が一定量以下であれば製造が解禁されているそうです。飲んだことはありませんが)


・トップ: ニガヨモギ、アンゼリカ、カシスのつぼみ
・ハート:スターアニス、ペッパー、パチュリ、クローブナツメグ、ジンジャー
・ベース:松葉、シスタス、バルサムモミ
<調香師 :オリヴィア・ジャコベッティ>

 

トップから薬草の匂いがします。アブサンはその色から別名グリーン・フェアリーとも呼ばれ、飲むと幻覚で緑の妖精が見えるという伝説もあるそうです。確かに、妖精が見えてもおかしくないような、幻惑的なオープニングです。
やがてトップのグリーンの下から出てくるのは、カルダモンやアニスなどのスパイス。全体はクールな印象なのに温かみがあるという二面性があります。私は氷を入れたアブサンを飲みながら、心の中では内なる炎が燃え続けているような情景を思い浮かべます。
やがてスパイスが落ち着くと、ラストはしっとりとした針葉樹系の大人のウッディノートになります。この滑らかさが非常に官能的です。

 

好みは分かれるかもしれませんが、トップからラストまでの変化が刺激的であり、薬草系でユニークなものを探している方にはお勧めの香水です。

アルード(ラルチザン パフューム)

アラビア半島の砂漠における黄昏をイメージした香水。黄金やミルラを運ぶキャラバン、全てが金色に染まる夕暮れを表現した香り。

AL OUDは2009年発表のEDP。調香師はベルトラン・ドゥショフールです。最近はウードの香り大ブレイク中の感がありますが、2009年頃から既に流行していたのでしょうか。各メゾン、中東ウケを狙っての戦略と聞きます。

 

こちらのサイトによりますと

BASB Magazine ドバイ 003 嗅ぐと究極の癒し効果!ドバイ流「人とかぶらない」伝統的フレグランス2つ


ウードの日本語名は「沈香」。アガーの木が菌に感染すると、傷を癒す為に芳香を放つ樹脂を出し始め、その部分の木片がウードとして利用されるそうです。マレーシア、ミャンマー、インドが人気の産地とのこと。中東というよりは東南・南アジアで採れるんですね。
かつてアラブの王族しか使用が許されなかったため、”香りのダイヤモンド”という別名があるそうです。

使われている香料は(既に廃盤となっているため、楽天のページから引用)
https://item.rakuten.co.jp/aromalab/lp11007608/
・ヘッドノート / クミン、カルダモン、ピンクペッパー、ドライフルーツ(デーツ)
・ハートノート / ネロリ、ローズ、アイリス、インセンス、ミルラ
・ベースノート / ウードウッド、サンダルウッド、レザーノート、アニマルノート、アトラス産シダーウッド、パチュリ、バニラ、トンカビーンズ
です。

 

ウードはベースノートに配置されてはいますが、最初からはっきりと香ります。つけた瞬間、ピュアディスタンスのブラックを思い出しました。ブラックは一切香料が明かされていませんが、ウードも使われているのでしょうか。ブラックの影響か、私は黒く塗られた漆を想像してしまいました。
ウードといえば癖のある香りというイメージですが、立ち上る香気は意外にも心地よく感じられます。しかしこれを心地よいと感じるかは人によりけりで、香水を使わない人にとっては結構ハードルが高いかもしれません。
トップはクミン、カルダモンやピンクペッパーが香りスパイシーですが、その後鉛筆削り(黒鉛部分も含め)を思わせるシダーウッドが香ります。さらに少し時間が経つとふわふわとしたウッディ・ムスクに変化します。つけてから1時間ほど経って、ドライフルーツなのかトンカビーンなのか、少々甘みが出てきますが、すぐに甘みは身を潜め、ラストはレザーとパチュリのマニッシュな香り。あまりアニマリックには感じませんでした。

 

いつかアラビア半島にも行ってみたいものです!

クールドベチバーサクレ(ラルチザン パフューム)

名前は「聖なるベチバーの心」。残念ながら廃盤となってしまっています。
iBeautyStoreによると、力強く野生的なハイチ産ベチバーと、優美でフレッシュなロベルテ産ベチバーの2種類が使われています。

トップ:ベルガモット、ブラッドオレンジ、ブラックティ、ジンジャー、ピンクペッパー
ハート:インセンス、ローズ、イリス、スミレ、ベチバー
ベース:ベチバー、アンブレットシード、レザーノート、ラブダナムサンダルウッド、ガイヤクウッド、トンカビーン、バニラ
(https://www.ibeautystore.com/products/1001718
を参照しました)
調香師:Karine Vinchon(fragranticaより)

トップはシトラスとブラックティーがジンジャーやピンクペッパーの温かみとともに香ります。その背後にこんもりとしたベチバーの匂い。
トップが過ぎるとローズなどのフローラルがインセンスとともに花開き、(ベチバーというと男性向け香水のイメージが強いですが)女性的ともとれる優美な香りが広がります。イリス、スミレも使われているためパウダリックな趣も若干あり、心から寛ぐことができます。このミドルの美しいこと!
ローズが落ち着くと、トンカビーンの甘露が感じられるベチバーとサンダルウッドに着地します。

香り立ちは他のラルチザンの作品と同じく終始上品で、声高に香ることはありません。

この香水の美しさには心を掴まれました。かえすがえすも廃盤が惜しい作品です。

BLANCHE(BYREDO)

BYREDO(日本ではバレード、バイレードとも)は2006年にスウェーデンストックホルムで誕生したブランドです。
創業者ベン・ゴーラムはインドにある母の故郷を訪れた際、スパイスやお香の匂い溢れる空気に感銘を受け、香りの世界へと傾倒していきました。

ベン・ゴーラムはスウェーデン人で、カナダ人の父とインド人の母の間に生まれ、トロント、ニューヨーク、ストックホルムで育ちました。ストックホルム美術大学でファインアートを専攻、修士号を取得した後、調香師Pierre Wulffとの出会いから「絵画よりも香水を作るべきだ」との思いに目覚めます。自身は香水に関する専門的な教育を受けていないものの、著名な調香師の助けを得つつ、独特なコンセプトの香りを多く発表しています。

…独特なコンセプトと言うのは、例えば
・北欧家具&鉛筆削り
・母の故郷、インドChemburの街にあるヒンドゥー教の寺院のお香
・世界的に有名なヘアスタイリスト
・アフリカの文化に熱狂する1920年代のパリ
・ロマ(ジプシー)のライフスタイル
・伝統的なインドの結婚式
・図書館に足を踏み入れた時に感じる、実世界から切り離された時間軸への浮遊感
などです。「図書館」といっても革表紙や糊の匂いを再現するのではなく、そこを訪れた時の感情を表現している、のが独創的だと思います。

今回ご紹介するブランシュは、ベン・ゴーラムの「白」という色に対する思いを中心に構築された香り。初めて誰かを思い描きながら作ったそうで、その女性の純粋無垢な面を表現するために、極めて透明感のある香りにしたといいます。

トップ: Aldehyde, Pink Pepper, White Rose
ハート: Neroli, Peony, Violet
ベース: Blonde Woods, Musk, Sandalwood

トップはアルデヒドが高音で鳴り、全体を持ち上げます。石鹸のような印象。ピンクペッパーのスパイシーさで一気に香りの世界へと引き込まれます。
それが段々と人肌を思わせる匂いへと変わっていきます。単なる明るく清潔感のある香りというよりは、少し陰のある香り。石鹸の印象は保ちながらも次第にヴァイオレットが効いてきて、ふんわりとしたパウダリーへと落ち着きます。ラストにはサンダルウッドが香り全体にコクと厚みを加えます。

つけてみて、特にミドル以降がとてもセンシュアルだと感じました。「極めて透明感のある香り」というよりは、乳白色のイメージを抱きます。基本的には石鹸のような香りなのですが、どこか仄暗さがあるので大人な雰囲気もある香水です。

BENJOIN19(LE LABO)

シティエクスクルーシブラインのモスクワ限定品です。

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モスクワと聞いただけで私の頭の中ではジンギスカンの「目指せモスクワ」が空耳と共に流れ出します(歌詞はドイツ語)。もすかうもすかう


【1080p】もすかう

 

ベンゾイン19はトルストイ作「アンナ・カレーニナ」における、アンナとヴロンスキーがモスクワ駅で出会う場面を表現。その瞬間、全てが変わり、何一つ元には戻れない。

使われているのはインセンス、ベンゾイン、オリバナム、アンバー、シダー、ムスク。
最初はインセンスの香りが立ち上り、その後、明かされている香料には入っていませんがウードのような癖を感じます(本当に入っているかはわかりません)。そこからベンゾインやオリバナムのまったりした香りへと変わっていきます。ベースノート系が多いからか、私はロシア人作曲家・チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番や、ラフマニノフピアノ協奏曲第2番(フィギュアスケート浅田真央選手がソチ五輪のフリーで使っていたので、皆さまも聞いたことがあるかもしれません)を聴いた時に感じた、重みのある情熱を思い出しました。

アンナ・カレーニナ」の長さのように持続性有り、と公式にはありますが、日本だと新潮文庫で上中下巻、岩波文庫で上中下巻、光文社古典新訳文庫で4巻が出ています。(この記事を書くにあたり私は「アンナ・カレーニナーまんがで読破ー」を読んでみました。)
実際つけてみると、ルラボならでの香り立ちの淡さがあり(ほんわか香るのはルラボの良さでもあると思っています)、「長時間経つと、鼻を近づけたら香っているのがわかるけど、全然拡散はしない」感がありますので、香りの複雑さを楽しみたければ日中一度付け直しするのをお勧めします。

MOUSSE DE CHENE30(LE LABO)

ルラボのシティエクスクルーシブラインのアムステルダム限定品です。

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クリスタルモスとクリアウッドによる「ネオ・シプレー」であると、公式では謳われています。

あらためてシプレ系についてご説明しますと、1917年にフランソワ・コティ社が発表した香水、Chypre de Coty(既に廃盤)が源流となっているジャンルです。「シプレ」とはフランス語でキプロス島のこと。シプレ系に特徴的な香料、オークモス(樫の木の苔)がこの島で採られていたことに由来します。基本的には、ベルガモット、ローズ、ジャスミン、パチュリ、ラブダナム、そしてオークモスが組み合わされた香調です。ゲランのミツコなどが有名です。
私はどちらかというとリラックス系というよりは、かっちりした印象を受けます。
余談ですが、近年ではオークモスがアレルゲンとして規制されるようになり、沢山使うのが難しくなっているとも聞きます。

今回使われているのはクリスタルモス(和名ヤナギゴケ)。光合成によって多数の気泡がつくのが特徴で、それが名前にも表されています。
香料メーカーのフィルメニッヒ社によりますと、クリアウッドはパチュリのやわらかくクリーンなバージョンで、オリジナルのパチュリから土臭さ、レザーやゴムのような匂いを取り除いたような香りであると説明されています。写真を見る限り、木というより葉っぱなのかな、と思います。

トップからシナモンとピンクペッパーが香り立ち、全体としてはクールな印象なのですがスパイスの温かみも加わり、その後も全体を引き締め続けます。確かに、パチュリの土っぽさは強く感じないように思います。

伝統的でありながら革新的なアムステルダムの街に捧げられた香り。シプレの王道から少しだけ癖を抜いて、クリーンでスタイリッシュな香りに仕立て上げられている印象を受けました。確かに、これはシプレの現代的な解釈なのかもしれません。

Abel(discovery set)

ニッチなフレグランスばかりを扱っている、新宿のNOSE SHOPでAbel(アベル)のディスカバリーセットを購入しました。アベルの香水全5種類のサンプルが入っています。各香りの説明が書かれた紙も入っています。

アベルは100%天然香料でできた香水を作っているオランダのメゾンです。日本で取り扱っているのは2018年2月時点でNOSE SHOPだけとのこと。全5種類をご紹介します。

 

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white vetyver

クリーミーなライムとスペアミントでスタートします。その背後に非常にライトなベチバーがいる感じです。ミドルはジンジャーとパルマローザとのことですが、大きく変化するというよりは、どちらかと言うとトップの印象が変わらないまま続きます。ラストはほんのりカラメル色。香り立ちが全体的に淡く、持続力も無いためスッと消えていき、ラストノートはかなり弱くなるため、バニラは入っていると言われなければ気づかないぐらいです。一番最初にサンプルを使い切りました。

 

golden nerori

ジューシーなネロリで幕を開け、そこに抹茶が丸みを与えています。ミドルはプチグレンとイランイラン。ネロリとイランイランの組み合わせによるのか、アベルの他の香水には無い華やかさがあります。香り立ちも一番濃いです(と言っても、アベルの香水は全体的にとても淡いので、あくまでそれと比較して、です)。他の香水がほわほわと香るのに対し、視界良好でクリアな感があります。ベースはシダーウッドとサンダルウッドですが、重厚感が出ることはなくほんのりと材木系のウッディが香ります。

 

red santal

クローブとペッパーでスパイシーに始まります。ミドルはベルガモット、ジンジャー、タイム。柑橘系がミドルに来るのは面白いなと感じました。ベースとなっているサンダルウッドはトップから香り、終始材木系の香りに包まれます。

 

cobalt amber

トップはピンクペッパーとカルダモンで温かみのあるスパイシーさ。ジュニパーベリーも使われています。ミドルはカカオとトンカビーンで、このカカオがなんと言っても特徴的でほんわかと香り、本当にほっとするのです。甘さは無いためチョコレートのような印象にはならず、グルマンには転びません。名前の通り、アンバーが通奏低音として流れています。

 

grey labdanum 

トップは包容力のあるビターオレンジから始まり、ピンクペッパーが楽しさを添えています。ミドルではパチュリやダークなインセンス、サンダルウッドによる落ち着きがあります。パチュリの土っぽさが去った後、ラストのラブダナム、オリバナムの香りへ。アンバーグリスも使われているようです。

 

全体として、ほっこりしていて、ほっとできる香りばかりだと感じました。いずれもシンプルなように見えて、ひと捻り効いている面白さもあります。

非常に肌馴染みが良く、ムエットでは癖が強くて苦手だと感じたものも、実際につけてみると嘘のように肌に寄り添った香りになります。ムエットで感じた癖(私の場合、ベチバー、アンバー、ラブダナムでした)は前面に出るのではなく、むしろ奥の方で香りに深みを与えているように感じました。

香り立ちは大変淡く、たくさんプッシュしてもあまり広がりません。また、物にも寄りますが持続力も弱く、スッと消えていきます。そこが好き好きかと思いますが(私は好きです)、ほっこりする肌馴染みの良い香りをお探しの方は一度試されてみてはいかがでしょうか。どれも良い香りですので、ディスカバリーセットは本当にお勧めです。