ロルフェリン(セルジュ・ルタンス)
ロルフェリン。直訳すれば「みなしご」。
[灰の乙女]
その香りは浮遊するベール。
父は木で、母は炎。
星屑のように優美で純粋。
けれどもやがて塵にまみれ、霞んでいく人生の軌跡。
それは記憶。
儚く繊細だが、しかし完全なもの。
(公式サイトより)
香料はインセンス、ムスク、カストリウム。
カストリウムはビーバーから取られる香料で、アニマリックなものです。
筆に墨をつける。集中して、紙に筆を置く瞬間。
そんな昔の記憶が思い出されました。
プッシュした瞬間に思い浮かべたのは何故か墨。パチュリが使われているかはわかりませんが、非常にストイックな印象を受けます。そしてインセンス。お寺やお仏壇のような印象はなく、居住まいを正して精神を集中させ、書に向き合う瞬間のよう。
次第に出てくるやわらかさと微かな甘み。精神を研ぎ澄まして筆を走らせ、それが終わって、自分の書を少し余裕を持って見ているような感覚に陥ります。
とは言え私は書道経験者ではなく、小学校で習字の時間があったぐらい(本当に絶望的に下手だった)です。冬休みの宿題で書き初めをした時はガチガチに緊張して書いた記憶があります。
私の高校には書道部があり、文化祭では学校の中庭を使って大きな作品を書く、という最高にシビれるパフォーマンスをしていたりしました。あれはカッコよかったなあ。
果たしてこの連想が「灰の乙女」「みなしご」とどう繋がるのかという感じですが、日本の公教育を受けてきた人間としての正直な感想としてお受け止めください。他国の人がどういう感想を持つのか、意見交換してみたいです!
POIVRE23(LE LABO)
ポアブル23 はシティエクスクルーシブラインのロンドン限定品。エクストレのパルファムであり、ルラボのペッパー声明文。ここでのペッパーはブルボンペッパーです。
香料は、Cistus、Incence、Pathouli、Gaiac wood、Pepper Bourbon、Australian sandalwood、Vanilla、Styraxなど…
つけた瞬間驚くのは、とても上品な香り。もっとペッパーがガツンとワイルドに来るのかと思いきや、スパイシーながら品があります。私はラーメンに胡椒をかけまくった時のあのむせ返るような匂いを予想していましたが、ちょっと意外に感じました(どんな予想だ)。おそらくこのトップはインセンス。
その奥にはパチュリの気配。そしてラブダナム、サンダルウッドがやってきます。ペッパーのスパイシーさは弱まることなくずっと鳴っていながらも、樹脂の甘みが出て来るのです。ペッパーが全体を引き締めていることもあり、甘ったるくはなりません。
セントチューブで小分けでいただいたものを直接肌につけている(アトマイザーにいれて噴霧していない)というのもあるかもしれませんが、割と多めにつけても香り立ちはそこまで声高ではなく、どちらかというとほのかです。シカゴ限定の香り、ベローズ26(こっちはピンクペッパー)を同量つけても圧倒的にポアブル23の方が弱く感じます。
粒子の細かいペッパーがずっと香りますので、拡散性が高いと周りの人もくしゃみをしてしまうかもしれないということへの配慮でしょうか。割とガチで胡椒ですので、胡椒好きの方にはお勧めです。
ウーロン・アンフィニ(アトリエ・コロン)
筆が進まない作家が、都会から離れ、湖が凍り雪が降るような寒い土地へと執筆のため出かける。温かい暖炉の火、氷の入ったウイスキーグラス。そんな情景。
賦香率15%
【トップ】シチリアのベルガモット、 チュニジアのネロリ、 フリージア
【ミドル】ウーロン茶、 ジャスミンの花びら、 ブロンドレザー
【ラスト】バルカンの煙草の花、 インドのガイアックウッド、 ムスク
トップから香りたつのはベルガモット。そこにネロリがやわらかさを添えています。そこから徐々に出てくるティーノート、そして滑らかなレザー。ミドルに入ってもベルガモットは香り続け、さながら「アールグレイティー烏龍茶版」。
ラストは僅かにウッディになる程度で、重厚感が出てくることはありません。しかしガヤックウッドのためでしょうか、少し固さがあります。
煙草が使われているためスモーキーな部分がありますので、冬に使っても背景にあるストーリーのようにキマると思います。ベルガモットが効いているため、逆に夏に使っても涼しくなりそうです!
香り立ちとしては控えめで、百貨店などのフレグランス売り場で嗅いでも(他の香水より弱いので)いまいちよくわからないかもしれません。(※今回のレポートはサンプルを自宅で試した上で書いています。)
以前の記事でも少しこのメゾンについて書きましたが…
2009年にシルヴィー・ガンターとクリストフ・セルヴァセルが創業したアトリエ・コロンは“コロン・アブソリュ”という新しい種類の香水を提唱しています。オーデコロンのフレッシュ感を保ちつつ、オードパルファンやパルファンの様に香りの構成と深みがあり、なおかつ持続性のある香水を作っています。
このウーロン・アンフィニも柑橘系の印象が強いながら、結構持続します。
しかしこの作家、ウイスキーを飲んでいるとのことですが烏龍茶は一体どこに?そして「究極(アンフィニ)の烏龍茶」とはいったい⁇
フランス人も烏龍茶を日常的に飲むのでしょうか。日本人にとっては、居酒屋でソフトドリンクを頼む時の定番、になっている気がします。
オーインペリアル(ゲラン)
1853年、ピエール フランソワ・パスカル・ゲランがナポレオン三世の妃ユージェニー皇后に献上し、ゲランが皇室御用達調香師の称号を得るきっかけとなった「オーデコロン イムペリアル」。
香調としてはフローラル・シトラス、香料はベルガモット、ネロリ、プチグレイン。
「ラベルには、ナポレオンが選んだと言われる鷹と王冠、笏の紋章が描かれ、ボトルには、皇帝の紋章であり、ゲランのシンボルである蜂が69匹あしらわれています。」(公式サイトより)
※ビーボトルについてはお手数ながら拙ブログの夜間飛行の記事をご覧ください。
http://heleninthegarden.hatenablog.jp/entry/2018/01/22/084450
このビーボトルのデザインは他のフレグランスにも使われ、最近のゲランイチオシなのか、それぞれボトルのデザインが異なっていたイディールやサムサラ、ランスタン・ド・ゲラン、シャンゼリゼ(いずれもEDP,EDT)も全てビーボトルに統一。BAさん曰く「本国は皇室と関わりのあるビーボトルを推したいらしい」とのことですが、ある意味それぞれの個性を消した形となり、一部ファンからは「改悪」だと言われています。(「コスト削減だろうか、価格据え置きのための企業努力なのかな」と思っていたら2018年2月7日値上げが来ました)
閑話休題、香りとしては開示されている通りで、ベルガモットとプチグレインをネロリがやわらかくまとめています。コロンであるため持続時間は短くすぐに消えるので、おでかけに纏うというよりは、家でリフレッシュのためにつけるものなのだと思います。お風呂上がりのホカホカの身体にバシャバシャつけると良さそうです。
夜間飛行 EDT(ゲラン)
1933年発表。調香師は3代目のジャック・ゲラン。オリエンタルシプレーの名香と言われています。
EDTはビーボトル100mlワンサイズ
昨年の5月の終わり。Twitterのフォロワーさんが「夜間飛行は良い」と呟いていたのを読んで、ゲランのカウンターに立ち寄りました。
最初に嗅いだ時の衝撃。
私の「名香なんて、現代にそぐわないもの。若い人は買わず、年配の方がリピートで買うもの」という偏見をぶち破り、古臭いのではない、もはや時代を超えているのだ、という気づきを与えてくれました。
他にもたくさんの香りをムエットに出していただきましたが、やはり一番気になったのは夜間飛行。肌に乗せてもらっても良いですか、とお願いすると、BAさんは私の手首に香水(P)を吹き付け、黒い優雅な扇子で扇いでアルコールを飛ばしてくれました。
(夜間飛行には香水(P)とEDTの2種類があります。余談ですが、ゲランは他の濃度よりも断然香水推しなのか、何も言わないとEDTなどではなく香水をムエットに出してくれます。この時も、濃度のリクエストをしなかったら香水の方を手首に乗せてくれました。
これはシャネルのカウンターでは体験したことがなく、シャネルのBAさんはあまり香水(P)は推して来ず、EDTや新作(Pではない)を勧めてきます。
※もちろんこれは私が行ったことのあるカウンターだけで、他の場所では違う対応をしているのかもしれません)
最初は訳がわかりませんでした。これまで嗅いだことのないような香り。とても複雑で、「何の匂い」とは言いづらい。そしてどう考えても一般ウケする香りでは無い。なのに私の脳はこれを「好きだ」と言っている。一体どういうことだろう…
不思議な気持ちのまま、その日は手首の匂いを度々嗅ぎながら電車で家に帰りました。
…というのは、昨年5月にブログに書いた通り(+α)なのですが、約半年の間、ゲランのカウンターに何度も通い、気になる香りを片っ端から試し、最後には夜間飛行に落ち着く、しかし今の私ではどうにも使いこなせる気がしない、使うシチュエーションが思い浮かばない、というのを繰り返しました。
そうこうするうちに私はひとつ歳をとり、ゲランのカウンターを再び訪れたある日、最終的にはその場のノリで購入を決めてしまいました。
「つけているうちに相応しい自分になれるだろう」という、変な楽観視。
ちなみに、香水は税抜き価格4万円で手が届かなかったため、EDTを選びました。香水のボトルは芸術品としか言いようがないのですけれどもね。
…前置きが長くなりました。真面目にレビューします。
最初に自宅でこの香りを身に纏った時。
グリーンガルバナムとともに空間に立ち上ってくるのは、なんとバニラ。
つけた箇所に鼻を押し当ててもわからないのに、立ち上ってくる香気には確かにバニラが。それも甘ったるくない、本当にひと匙の、滑らかな甘さ。
なるほど、これがゲルリナーデか…。
“ゲルリナーデ”とはゲラン独自の調香のペースで、ベルガモット、ローズ、ジャスミン、トンカビーン、バニラ、アイリスを繊細に組み合わせたものです。
以前、小分けでアビルージュ(同じくゲラン)をいただいたことがあり、それと一致する部分が確かにあります。
そうか、これが”ゲラン節”か。
トップは全体として湿った苔を思わせる香り。まるで森の中に足を踏み入れたような気持ちになります。
森の中を歩いていくと、ミドルでは様々な花が咲いていきます。明かされている香料はスイセン、バイオレット、カーネイション、ジャスミン、ローズ。控えめながらも優しさのあるフローラルです。
最後は乳白色を思わせる、優しいパウダリーへと落ち着きます。まるで、嵐の後訪れた平穏のよう。飛行機で乱気流を乗り越えた先にある晴れ間、眼科には一面雲の海が広がっているー、そんな光景をイメージします。このラストに包まれるのは言いようのない至福です。
EDTの持続時間はだいたい3時間ぐらいでしょうか。そこまで香り立ちが強くないので案外使いやすいと思います。
APOM プールファム(メゾン フランシス クルジャン)
APOMはA Part Of Meの略。他の人にも勧めたくなる、自分の一部になるような香り。
シロッコの風の息吹、そして地中海沿岸の男性と女性から溢れるセンシュアリティの響きー
だそうです。
香料:オレンジブロッサム、イランイラン、シダーウッド
香調:パウダリー ウッディ フローラル
シロッコ(伊:scirocco,sirocco)は、初夏にアフリカから地中海を越えてイタリアに吹く暑い南風(あるいは東南)である。サハラ砂漠を起源とする風で、北アフリカでは乾燥しているが地中海を越えるためイタリア南部到達時には高温湿潤風となり、時に砂嵐を伴う。
(Wikipediaより。砂が海を渡っている写真も載っています)
…要するにイタリア版黄砂ですね⁈(雑)
一体黄砂とA Part Of Meがどう繋がるのかあまりよくわかりませんが、どのような香りかというと。
つけたてすぐは、甘くて濃いセクシーな香りがぶわっと来ます。香り立ちは割と強め。私の知っている穏やかで控えめなオレンジブロッサムとは違うんだけど…そうか、これが地中海沿岸の人々の色気か…(コンセプトを知って納得)
そのトップがしばらく続きやがてミドルに入ると、急激にやわらかい香りになります。外にアピールするというよりは、それこそ、肌そのものから香り立つような。とびきりセンシュアルで、ああ、確かにこれはA Part Of Meだ、と納得します。
そうか。
我々日本人からすると、時に砂嵐を伴う、地中海を渡る熱く湿った風と、A Part Of Meは全く関連がないように思えるけれど、イタリアの人達にとってはどうなのだろう?
シロッコも含めてイタリアの初夏、自分達の国の季節、自分達の生活なのではないか。
もちろんこれは推測に過ぎません。イタリアの人達に向けてだけでなく、世界中に向けて売っている香水ですし。しかし、日本人の立場だけで物事を考えてしまうより、他の国の人達にとってはどうだろうと色々想像するのも楽しいな、と新たな発見がありました。
ちなみにAPOMはプールオム(男性向け)もあり、明かされている香料はオレンジブロッサム、シダーウッド、アンバーです。こちらもセクシーなのでしょうか、今度機会があれば嗅いでみたいと思います。
タンブクトゥ(ラルチザン パフューム)
西アフリカのマリに伝わる“恋人を虜にする香料”からインスパイアされた香り。アフリカ原産の香料、トロピカルフラワー(カロカロンデ)やパピルスウッドが使われています。
名前はマリ共和国内のニジェール川の中流域、川の湾曲部に位置する砂漠の民トゥアレグ族の都市から。(そう言えばイルプロフーモにもトゥアレグという名前の香水がありましたね。)
フレグランスファミリー / ウッディ (ウッディ スパイシー フローラル)
ヘッドノート / ピンクペッパー、カルダモン、グリーンマンゴー
ハートノート / カロカロンデ、インセンス、パピルスウッド
ベースノート / ベチバー、パチュリ、ミルラ、ベンゾイン
調香師 / ベルトラン・ドゥショフール
つけた瞬間、これまで嗅いだことの無い香りに衝撃を受けます。トップはかなりスモーキー。グリーンマンゴーが一瞬広がったかと思うと、すぐにカルダモンが視界を覆い尽くします。フルーティーというよりはかなり固さのある香りで、ベチバー、パチュリが骨となって全体を支えており、インセンスがその骨とともに立ち上ります。その後控えめながらもほんの少しだけ華やぎが出てくるのは、カロカロンデの花でしょうか。どこか古い紙を思わせる香りも出てきて、これがパピルスウッドなのかなと思います。トップに比べると、もう少しひらけた場所に出たような印象を受けます。
そこから少し甘みのある樹脂の香りへ。温もりがあり、ほっとするような美しいドライダウンです。
「マリの恋人を虜にする香料」がモチーフのこの香り。最初に聞いた時は「エキゾチズム全開のメルヘンなコンセプトかよ」と思ってしまいましたが、いざ肌にのせてみると確かに惚れ薬だと納得できますーそれも、異性に対してではなく、変わった香りが大好きなフレグランスラバーへの。このスモーキーで甘さの少ない香りは心を捉えて離しません。
これをつけても、他人への「良い匂い」アピールには全くなりません。ただただ、自分が自分らしくあるために、そして過酷な現実に向き合うために纏いたい香りです。