とある愛香家の日記

香水に対する偏愛ばかりを書き連ねております

夜間飛行 EDT(ゲラン)

1933年発表。調香師は3代目のジャック・ゲラン。オリエンタルシプレーの名香と言われています。

 

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EDTはビーボトル100mlワンサイズ

 

昨年の5月の終わり。Twitterのフォロワーさんが「夜間飛行は良い」と呟いていたのを読んで、ゲランのカウンターに立ち寄りました。

 

最初に嗅いだ時の衝撃。

私の「名香なんて、現代にそぐわないもの。若い人は買わず、年配の方がリピートで買うもの」という偏見をぶち破り、古臭いのではない、もはや時代を超えているのだ、という気づきを与えてくれました。

 

他にもたくさんの香りをムエットに出していただきましたが、やはり一番気になったのは夜間飛行。肌に乗せてもらっても良いですか、とお願いすると、BAさんは私の手首に香水(P)を吹き付け、黒い優雅な扇子で扇いでアルコールを飛ばしてくれました。

 

(夜間飛行には香水(P)とEDTの2種類があります。余談ですが、ゲランは他の濃度よりも断然香水推しなのか、何も言わないとEDTなどではなく香水をムエットに出してくれます。この時も、濃度のリクエストをしなかったら香水の方を手首に乗せてくれました。

これはシャネルのカウンターでは体験したことがなく、シャネルのBAさんはあまり香水(P)は推して来ず、EDTや新作(Pではない)を勧めてきます。

※もちろんこれは私が行ったことのあるカウンターだけで、他の場所では違う対応をしているのかもしれません)

 

最初は訳がわかりませんでした。これまで嗅いだことのないような香り。とても複雑で、「何の匂い」とは言いづらい。そしてどう考えても一般ウケする香りでは無い。なのに私の脳はこれを「好きだ」と言っている。一体どういうことだろう…

 

不思議な気持ちのまま、その日は手首の匂いを度々嗅ぎながら電車で家に帰りました。

 

…というのは、昨年5月にブログに書いた通り(+α)なのですが、約半年の間、ゲランのカウンターに何度も通い、気になる香りを片っ端から試し、最後には夜間飛行に落ち着く、しかし今の私ではどうにも使いこなせる気がしない、使うシチュエーションが思い浮かばない、というのを繰り返しました。

 

そうこうするうちに私はひとつ歳をとり、ゲランのカウンターを再び訪れたある日、最終的にはその場のノリで購入を決めてしまいました。

「つけているうちに相応しい自分になれるだろう」という、変な楽観視。

ちなみに、香水は税抜き価格4万円で手が届かなかったため、EDTを選びました。香水のボトルは芸術品としか言いようがないのですけれどもね。

 

 

…前置きが長くなりました。真面目にレビューします。

 

最初に自宅でこの香りを身に纏った時。

 

グリーンガルバナムとともに空間に立ち上ってくるのは、なんとバニラ。

つけた箇所に鼻を押し当ててもわからないのに、立ち上ってくる香気には確かにバニラが。それも甘ったるくない、本当にひと匙の、滑らかな甘さ。


なるほど、これがゲルリナーデか…。

 

“ゲルリナーデ”とはゲラン独自の調香のペースで、ベルガモット、ローズ、ジャスミン、トンカビーン、バニラ、アイリスを繊細に組み合わせたものです。

 

以前、小分けでアビルージュ(同じくゲラン)をいただいたことがあり、それと一致する部分が確かにあります。

 

そうか、これが”ゲラン節”か。

 

トップは全体として湿った苔を思わせる香り。まるで森の中に足を踏み入れたような気持ちになります。

森の中を歩いていくと、ミドルでは様々な花が咲いていきます。明かされている香料はスイセン、バイオレット、カーネイション、ジャスミン、ローズ。控えめながらも優しさのあるフローラルです。

最後は乳白色を思わせる、優しいパウダリーへと落ち着きます。まるで、嵐の後訪れた平穏のよう。飛行機で乱気流を乗り越えた先にある晴れ間、眼科には一面雲の海が広がっているー、そんな光景をイメージします。このラストに包まれるのは言いようのない至福です。

 

EDTの持続時間はだいたい3時間ぐらいでしょうか。そこまで香り立ちが強くないので案外使いやすいと思います。

 
 
「夜間飛行」はゲランのクリエイションの中で、もっとも意外性に満ちたフレグランスです。自分の要求をはっきり主張し、カリスマ性あふれる女性に向けた香り。その謎に満ちた香りを自分のものにするまでには、少しばかり時間が必要。一晩中共に過ごして、やっとそのアイデンティティが分かるのです。」(公式サイトより)
 
 
あまり「肩をいからせた、声高で強い女性」のイメージはなく、芯がありながらも自然体で前へと進んでいく女性の姿が見えます。
確かに、私も一度では購入を決められず、何度もカウンターに足を運び、「どうしてもこの一本でなければならない」という確信が強まってからやっと買うことができました。
マイファーストゲラン。どうかこの名香が廃盤になりませんように。
 
公式サイト