とある愛香家の日記

香水に対する偏愛ばかりを書き連ねております

B683(MARC-ANTOINE BARROIS)

フランスのクチュリエから出ている香水です。

 

B683は2人の若いデザイナーが出会った結果作られました。一人はクチュリエ、一人は調香師。彼らの子供時代の思い出が二人の距離を近づけました。エレガントなアタッシュケースや無傷のデスクブロッター(上に大判の吸い取り紙が敷かれているデスクマット)の革の匂いや、家族が集う時間に身体を温めてくれる、燃料の木の特徴的な匂いなどの、魅力的な匂いを思い出しながら。

(ブランド公式サイトより)

 

B683というのは、「星の王子さま」に出てくるB612のような、架空の惑星の名前です。

 

Fragrance Notes:
Black Pepper, Saffron, Chili Pepper, Nutmeg, Violet Leaf, Amber, Cistus Absolute, Musk, Patchouli, Santal Wood, Oakmoss, Ambroxan

(アメリカの香水店Twisted Lilyサイトより)

https://twistedlily.com/shop/eau-de-parfum/b683/

 

一番最初にスプレィした瞬間はかなりメンズ寄りなのかな?と感じましたが、それもほんの一瞬で、香りの物語が展開しはじめるとユニセックスとして使える印象を受けました。とても穏やかで滑らかな匂い。ミドルのバイオレットリーフ、ラブダナム、そしてムスクがしっとり優しく香ります。ひんやりとした冷たいレザーを触っているかのように、とても心地よく、何度も深呼吸したくなります。ベースへと移るとパチュリとサンダルウッドが優しく香り、やがて纏う人の意識を邪魔することなく綺麗に消えていきます。

何回かつけてみて、私は宇宙をイメージしました。もしかしたら、B683という架空の惑星の名前がそう感じさせるのかもしれませんが、独自の世界観を持っているのは間違いありません。それと同時に、家の中の温かな雰囲気も感じられます。きっと製作者二人の子供時代の思い出は、幸せなものだったんだろうな、と想像できます。

丁寧に作られたんだろうなというのが伝わってくる、端正な香水です。肌から決して離れず、吸い付くように香ります。声は決して大きくなく、穏やかな口調で話し、無駄口は一切聞かないスマートな大人の男性をイメージします。

FILLE EN AIGUILLES(Serge Lutens)

日本語での名前は「松林の少女」。以前は50mlが13,000円ほどで買えたそうですが、現在は通常ラインから外れ、高級ラインGRATTE-CIELのひとつとして復活、しかし100ml290ユーロとはこれいかに。

 

「松葉。樹脂、陽の光、蝉と背の高い松の木々の陰。松葉が足をチクチク刺すけど、浜辺の松林は素晴らしいものだ!」(英語サイトより)

 

使われているのは松葉、樹液、香油、ベチバー、ローレル。

松の清々しい香りに、樹液を思わせるシロップのようなさらりとした甘さ。ローレルが入っていると知り、それも清涼感の正体かと納得しています。

リラックス効果が高く、精神の鎮静作用がある香りです。お出かけに使っても良いけど、個人的には家で内省する時間につけたい。液体の色がとても濃い(焦げ茶)ので、真っ黒な服を着て、ダークなルタンスの世界に浸りたいと思います。

Erawan(Parfums Dusita)

2018年発表。

 

「Erawanはゾウの神様の名前。そしてタイにある滝の名前でもある。私は調香する時に、ゾウが熱帯雨林へ、滝へ向かって歩いていくのを想像します。」(ピサラ・ウマヴィジャニ)

 

昨年の夏、最初につけた時はトップノートにびっくりしました。え、えぐい…。気軽に纏うには難易度の高い香り。さすがドゥシタ、一筋縄ではいかないな…。プチグレンの香りってあるけど、こんなプチグレン嗅いだことないぞ⁈とビビりました。

冬になってもう一度つけてみると、意外にもえぐみは出ず、むしろトップが心地よく感じられたので、季節や体調によって感じ方が大きく異なるのかもしれません。

ミドルはミュゲ、ハイチのベチバー、そしてヘイ(干し草)が陽の光や木、タバコや刈られたばかりの干し草を表現し、それをLiatrix(クマリン=桜餅の匂い のする香料)が支えます。クラリセージも使われているとのこと。

これが本当に干し草感全開で、気分としてはお日様に温められた干し草のお布団に身を埋めているよう。クマリンっぽい匂いも強く感じられ、干し草と桜餅(の匂い)の意外な組み合わせが、意外と心地よく感じられることに驚きます。クマリンは同じDusitaのIssaraでも使われているので、比較してみると面白いかも。

ラストは、シダーウッド、オークモス、バニラ。アーシーなベースノートがいつまでも持続し、昼間つけても夜中まで香ります。バニラも存在感があります。


Dusitaは絵などのヴィジュアルがとても美しく、ボトルも綺麗だし、調香詩のお父様の素敵な詩も添えられていて、さぞかし美しく好感度の高い香りを作っているのだろうなと思いきや、かなり個性が強く、なんとな~く良い気分に浸るためにつけると返り討ちに合うという、向き合うのに多少の覚悟がいる香りが多い気がします。つけていて意識に占める割合が高く、存在感があります。作りが堅牢というか、しっかり作り込まれていて、中途半端ではありません。Le Sillage Blancはあまりの苦さにぶっ飛びました。香水好き(もっと言えばマニア)のためのブランド、という認識です。好きな人は超好きだろうなという感じの。今回、Erawanを嗅いでも「似たような香り」を全く思いつきませんでした。「どれも良い香りだけど、どこかで嗅いだことのあるようなものばっかり。欲しいものがない」と香水売り場で肩を落としている方、一度Dusitaに挑戦されてみてはいかがでしょうか。

フルボトルは結構なお値段しますが、公式サイトではサンプルを買うこともできますし、最近7.5mlのトラベルサイズも出たので、意外とトライしやすいブランドかもしれません。

Vaara(PENHALIGON’S)

2013年発表。

 

日中が50度を超えるジョードプルの街。そこでは家々が涼しさを演出するため多くの家が壁を青く塗っており、ブルーシティと呼ばれています。そこにはインド最後のマハラジャ、ウメイド・ガジ・シン2世が暮らしていて、ペンハリガンが彼のために作ったフレグランスがヴァーラです。調香師はベルトラン・ドゥショフール。ヴァーラは孫娘の名前だそうです。

 

フルーツとスパイスで始まり、マハラジャのサマーハウスに咲き誇るローズやマグノリアへと移ろう。ベースノートはムスクとサンダルウッドで、香りに深みが増していく。

光溢れるインドの青空のもと、宮殿のベランダで、祖父と孫娘が笑いあっているーそんな情景が思い浮かびます。

 

HEAD NOTES

マルメロの実、ローズウォーター、キャロットシード、コリアンダーサフラン

HEART NOTES

モロッカンローズアブソリュートブルガリアンローズオイル、フリージア、インディアンマグノリア、ピオニー、アイリス

BASE NOTES

ハチミツ、ホワイトムスク、シダーウッド、サンダルウッド、松やに、トンカビーン

 

中でも白眉なのはラストノート。ハチミツの香りがとてもとても素晴らしいのです。

 

家族愛に溢れたフレグランス、ヴァーラ。明るい香りなので、デイタイムによく合います。季節は年中いつでも。暑いジョードプルの街にも似合うためか、夏でも使えると思います。

私がつけるとローズがツンツンしてしまうので、肌との相性はチェックした方がいいかもしれません。

 

<余談>

ウメイド・ガジ・シン2世は世界不思議発見でも取り上げられたようです。

http://s.kakaku.com/tv/channel=6/programID=271/episodeID=724965/

見たかった…!

ああ、ジョードプル行きたい…

Patagonia, Ett Hem(fueguia1833)

フエギア1833のパタゴニアとエットヘムを購入しました。

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太古の森を恐竜が歩いている、というのがパタゴニアのイメージ。G20の際、ファーストレディからのオーダーがあり作ったものを調香師が気に入り、通常販売したもの。

KEY NOTE:

1.Austrocedrus 2.Araucaria 3.Paramela

アトラスシダーや、パラメラという薬草が使われています。香調はウッディ。ほんの少しだけスモーキーさもあります。

パタゴニア南米大陸の南緯40度付近を流れるコロラド川以南の地域の総称で、フエギアのホームグラウンド。パタゴニア自体広大な土地ですが、太古の森をイメージしているということで、空間的な広がりのみならず時間的な広がりも感じることができます。つけていると、ふとした瞬間に自分が太古の森にいることに気がつきます。

季節の問題(気温、湿度、着ている衣服の厚み)や、私の肌の問題もあるのだとは思いますが、拡散性が極めて低いように感じ、プッシュしてもあまり香らないので、私は思い切って胸元につけています。あとはその時の気分に応じてウエスト、内腿、肘の内側などから適宜選択。基本的に胸元というのは匂いが鼻を直撃するので気分が悪くなりやすく危険なのですが、パタゴニアぐらい拡散性が低いとちょうどよく感じます。とはいえフエギアは暖かい季節になる程強く香るように私は感じるので、春や夏になったらまたつけ方を工夫しなければならないかもしれません。私は職場にもつけて行き、時折ウッディな香りが鼻を掠めては癒されています。

この香りのすごいところは、ウィスキーにとんでもなく合うところです。ウッディなので食事の邪魔をしない、なおかつウィスキーの香りや風味と合わさると何とも言えない良い気分になります。

 

エットヘムはスカンジナビアにある同名のホテルから。エットヘムとは、At homeという意味。

KEY NOTE:1.Black Pepper 2.Cedarwood 3.Sandalwood

私はあまりペッパーのスパイシーさは感じず、サンダルウッドの温もりを強く感じます。

ホテルの暖炉の前で過ごす時間だったり、毛布にくるまったり、窓の外を眺めたり…というイメージ。最強の「ぬくぬく香水」で、家でゆっくりする時につけたい香りです。

エットヘムも拡散性は低く感じますが、あまり鼻と近いと良さが感じられず(鼻を押し当てて嗅いでもピンと来ません)、少し離れたところからふんふんと香る香気が心地よいので、胸元には決してつけず、肘の内側、ウエスト、内腿などにその日の気分で量を調整してつけています。


私のファーストフエギアはカクタスアスールとダーウィンで、京都のポップアップストア(覚えていらっしゃる方、いるでしょうか。あの6月の良い季節…!)で香料も何も見ずに27種類ぐらいある中から選んだのに両方シダーが使われていて、そんなに私はシダーに惹かれるのか…と思ったんですけど、今回パタゴニアにもエットヘムにも使われていると知って、どんだけシダーにご縁があるんだ、私…と思いました。プロファイリングで選んだハカランダにもシダーは使われているらしく、どうも私はフエギアのシダーにとんでもなく惹かれる傾向にあるようです。

LA DOUCEUR DE SIAM(Parfums Dusita)

Parfums Dusitaはタイ人調香師Pissara 'Ploi' Umavijaniをオーナーとするブランドです。Dusitaとは楽園ーただの楽園ではなく、心の中で幸せを感じている時の楽園ーを意味します。ピサラさんの亡くなられたお父様Montri Umavijaniは詩人で、Dusitaの香水はお父様の詩に敬意を表して作られています。

「私達は模倣できない素晴らしいフレグランスを作ろうとしています。真に趣向を凝らした香水を。シャムのエレガンスで彩られた、伝統的なフランスの洗練を。」

(ピサラさんご自身が、ヴィンテージ香水コレクターなのだそうです。)

Dusitaでは伝統的なフランスのパフューマリーに、シャムの儀式で使われてきた香料(ジャスミン、セージ、ローズ、蜜蝋、サンダルウッドなど)を使用しています。

 

今回ご紹介するのは「シャムの優しさ」と題されたEDPです。200年前のタイ人女性をイメージして作られた香水です。

トップから主に香るのはローズドメで、そこにフランジパニ、チャンパカなどの南国の花が加わります。カーネーション、イランイラン、バイオレットリーフもトップノートに使われています。

ミドルではシナモンと、タイのチャルードの樹皮(昔のシャムで使われていた、ウッディでバニラのような香りがするものなのだそうです)が使われ、なんとも言えない滑らかな甘やかさが加わります。

ベースノートはバニラ、マイソール産サンダルウッド、アンバー、アンバーグリスです。最後にサンダルウッドが低音で響いているのが心地よく感じられます。

 

大変美しい香りで、異国情緒も感じますが、南国ムードに強く傾きすぎることはなく、洗練されたヨーロッパのイメージと、タイトルどおりの「シャムの優しさ」が融合した、まさにブランドの哲学が形になったような香水だと思います。

Dusitaの香水は何種類か試しましたが、かなり個性的なものも多く、その中でもこれは使いやすいように感じました。

OPUS V(Amouage)

アムアージュは1983年にオマーンのスルタンによって設立されたブランドです。「世界一高級な香水のひとつ」とも言われています。オマーン特産のフランキンセンス(乳香)をよく使っていることでも知られています(Opus Vには使われていません)。

 

Opus VはLibrary Collectionのひとつ。伝統的な、そして近代的な知識の広まり方(インターネット)にインスパイアされたフローラル・ウッディフレグランス。

(Library Collectionは、図書館や科学など、知識の在り方にインスパイアされた香水が多いです)

 

Top: Orris Absolute, Rhum.

Heart: Orris Concrete, Rose, Jasmine.

Base: Agarwood, Civet, Dry Wood Accord.

 

トップはジューシーで、豪華絢爛。百花繚乱、という言葉が思い浮かびます。フローラル系の香料はミドルノートにクレジットされていますが、ミドルよりもトップの方が花が咲き乱れている印象です。オリスと花々の宴を楽しむことができます。ラムのためか、「美しい香りに酔いしれる」という表現がぴったり。ミドルに移ると落ち着いたオリスの根の香りへと変わります。同じオリスでも、私はミドルの方が根っこっぽく感じます(注:オリス/アイリスはニオイアヤメの根茎から採られる香料)。ちなみにコンクリートとは生の植物から揮発性溶剤を使って抽出して得る物質のことで、アブソリュートはコンクリートの溶解性部分を、熱を使わない方法で抽出し得られる物質のことです(…とはいえ、私は嗅ぎ分けられません汗)。香りの出力自体もだいぶ落ち着きます。

やがて、香りになんとも言えない渋めの奥行きと深みが出てきます。これはベースノート香料の成せる業。ウード(Agarwood)度合いはあまり強くないため、ウードに苦手意識がある方でもトライできると思います。

華やかなトップも、落ち着いた根っこっぽいミドルも、深みのあるラストも私は全部好きです。

 

ちなみに、オマーンではアムアージュの工場見学もできるそうです。行ってみたいですね。